灯りが殆ど無い道をポンコツのベンツは猛スピードで走る。この分だとセウタに着くのは9時過ぎで、スペインとの時差は・・・そうだ、サマータイムだから2時間あるのだ。それをすっかり忘れていた。ということは、到着時の時刻は夜11時。それからホテルを探さなければいけないのだ。さすがにまずいと思い始めたが、何の根拠も無しに何とかなると強引に自分を説得し、ジェットコースターのような運転に身を任せた。
1時間ほど経ったあと、運転手のおっさんが前を指差す。何かな、と思ったらそこにはセウタの夜景が海に浮かんでいた。実際には陸で繋がっているが、半島の先端に街があるのでそう見えるのだ。そして密度の高いこの街の周りには何も無い。とても素晴らしい光景だった。今までこれほど綺麗な夜景は見たことが無かった。この夜景を見た瞬間、強引にここまで来たことは間違ってなかったと確信できた。国境に着いてからは大変だけど何とかなるだろう、と思わせてくれる根拠がそこにはあった。
9時過ぎになってようやく国境へ到着。モロッコ側の街も、どことなく印象が違う。しかしタクシーを降りるとすぐに自称ガイドが寄ってくる。「マイフレンド」と言って入国カードを売りつけてくるのだ。勿論入国カードは無料で貰えるので、無視して進む。最後までモロッコはモロッコだった。
カウンターで用紙に記入し、パスポートにスタンプを押してもらってあっさり手続き完了。陸路で国境を越えたが、今後が心配で特に感想は無かった。時間が遅い事もあって、結構ヤクザな連中がたむろっていてかなりビビる。日本人なんて他に居るはずも無い。でも、ここはもうヨーロッパだ! まだアフリカ大陸だけど、とにかくヨーロッパだ! もう自称ガイドは居ないし、蝿も寄ってこないのだ。 慣れてきたとは言え、やはり自称ガイドと蝿にはうんざりしていた。
街の中心部まではバスが通っているらしいのだが、バス停には誰も居ない。近くに座っていたチンピラのような人にもうバスは無いのか、と勇気を振り絞って聞いてみると無愛想に無いと言う。仕方ないので、中心部まで数キロの距離を歩くことにする。
中心部までは海岸沿いを一本道。人もあまり居ないし、海岸沿いで野宿でもしようかと思ったが、なかなか踏ん切りがつかずにとぼとぼ歩く。すると、後ろからパトカーが走ってきて、近くで停まった。嫌な予感が・・・。
案の定警官が2人降りてきて、スペイン語で何か早口にまくしたててくる。英語で応戦するが全く通じない。セウタは土地柄英語の通用度が高いと聞いたが、噂ほど当てにならないものはない。そこで単語モードに切り替え、「ホテル、ホテル」と連呼。すると通じたのか通じなかったのか分からないが、パトカーに乗れと言ってきた。逆らう訳にも行かないので素直に従い、パトカーの固い後部座席に座る。やれやれ、パトカーだって。日本でさえ乗ったこと無いのに。まさかニセ警官でも無いだろうし、密入国している訳でも無いし、好きなようにしてくれといった感じだった。もし拘置所に連れて行かれても、屋根があるだけマシだろう。
数分後パトカーは途中の広場で停車した。するともう1台パトカーがあり、今度はこっちに乗れと言う。言われるままに乗り込むと、紙切れを見せられた。そこには「hogehoge HOTEL 30ユーロ、fugafuga HOTEL 50ユーロ」と書いてある。何と、ホテルまで案内してくれるのか。そしてどうやらどちらかを選べと言いたいようだ。当然30ユーロを選ぶ。しかしそのホテルに行くと既に閉まっていて、近くのやはり閉まっているホテルへ。今度はインターホン越しでの警官の説得により泊めてくれることになった。フロントのおっさん曰く「3人部屋しか空いてないけど、1人部屋の料金で良いよ」。ああ、なんて良い人達なんだ・・・。
鍵を渡され、ホテルの部屋に入ったときの喜びは今も覚えている。「なんとかなった!」と思わず叫んだ。時計を見ると、深夜の1時を過ぎていた。振り返ってみると、この日はかなりの無茶をした。自分で言うのも何だが、今まで旅行中は常に冷静で安全な行動を心がけてきたのだ。でもまぁ、なんとかなるものだ。また今度こんな状況になっても、多分なんとかなるんだろう。そう、じたばたしていれば。
このあとは平凡な旅が続くので、モロッコ・イベリア編はとりあえず終了。
Posted by hanzo at March 23, 2006 11:13 PM | コメント (2) | トラックバック (0) | Clip!!
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