中国の寝台列車はいかほどのものかと思っていたが、案外普通だった。特別、日本の北斗星なんかと変わらない。ただ、3段ベッドは上の段に行くほど天井が低くなり、寝台車に乗るときは毎回自分がどの段に割り当てられるかやきもきした。小さなテーブルの下には銀色の消火器みたいなのがあって、何かと思ったら魔法瓶だった。車内でカップラーメンなんかを食べるときに使うらしい。ちゃんと車両ごとに給湯器もついていた。
西安までの間、近くのベッドにいた、西北大学で英語を教えているというおっちゃんと話した。会話は英語、と言ってもこっちは片言の英語だが、両者の歴史についての話がとても面白かった。こっちとしては逆鱗に触れる感じで避けたくなるような話題だが、とくに喧嘩になることもなく、むしろ中国人の生の感想を聞けたのはよかった。確かに南京大虐殺のようなことは決して忘れないと言っていたが、過労死なんかが社会問題になる日本人の勤勉さを称えていた。
西安に着いて1泊目は自由行動。着いてから知ったが西安は城壁に囲まれた街だ。hanzoと染と4元(4元言われる所以はこの日にある)ととりあえず東のほうにぷらぷら歩き、市場みたいなところで肉まんらしきものを買った。それぞれ違う味を買ったが、おれの買ったのは激辛で辛いものが全くだめなおれとしては悪夢だった。それでも空腹を満たすため、水を買って押し込みながらどうにか完食した。それからしばらく肉まん恐怖症に陥った。
4人でタクシーに乗って市内を見回る。とりあえず五重の塔みたいなとこ行って上まで上った。あーよく見えるなぁってかんじ。それからほとんど観光客がいない寺みたいなとこに行った。書で有名らしく日本の書を愛する人たちが来るとか。その帰り、タクシーまで歩く間、姉ちゃんと散歩中の小さな犬と出会った。一生懸命走っても人の歩くペースより遅いような可愛らしい犬だった。タクシーまで行くとその姉ちゃんと犬も便乗(と言っても向こうはタダ乗り)してきたからついでに写真撮ってみた。ほんとにちっこくてかわいい犬だった。
お次はメインの西安動物園。パンダがいると聞いてかなり楽しみにしていた。園内はてきと〜ってかんじで動物たちが檻に入れられていた。どれも愛想のないふんっとした動物ばかり。途中、池の上をロープで渡るアトラクションがあって無邪気に遊んでしまった。園内をぐるぐる回ったがなかなかパンダが見当たらない。おそらくメインであろうパンダであるからきらびやかな檻に飾られているに違いない。そう思って探したが見つからない。絵を描いて誰かに聞いてみようってことになったがその絵があまりに下手で笑った。ようやく「熊猫」はこっちと書かれた看板を見つけてたどり着いた。が、あ然とした。たしかにパンダはいたが、上野動物園なんかのイメージとは違って今にも息絶えそうな風貌だった。これが期待したパンダかよ〜ってすごいがっかりした。せめてもっと洗ってあげてほしかった。こりゃ奥まった隅っこのほうにいるのもわからなくはなかった。果たしてあのパンダは今でも健在なのだろうか…。
そしてこの日、hanzoが一人の少女に恋をする。夜、現地の人が行くような食堂が並ぶ通りを歩きながらどこに入ろうか迷っていた。勇気を出してある店に入り、現地人ではないおれらは珍しそうに見られたが、コンクリートの壁に囲まれた奥のテーブルに案内された。おせじにも衛生的とは言えないところだったが、現地ではごく普通なのだろう。そこにまだ10歳にもならないであろう少女がいた。注文をとりに来たりビールを運んできたり食事を持ってきたり、お母さんの手伝いをしているようだった。こんな小さな娘が働くなんて日本ではまず見られない光景だし、その一生懸命働く姿に感動していた。だが、感動を通り越し、hanzoは恋に落ちていた。彼女を日本に連れて帰りたそうにしていたが、犯罪になるから10年待て、と言ってどうにか留まらせた。
次の日は丸1日団体行動で、兵馬俑に始まり、歴史博物館、碑林などに行った。兵馬俑は歴史の教科書とかで見たことあったがとくに感動はなかった。歴史博物館はガイドの説明について行く人がだんだん減っていき、最後には両手数えられるくらいになってしまったので、あまりにかわいそうだから聞いてるふりしてついていった。ここの広場でみんな及川さんと太極拳をやっている間にお土産屋で夜光杯を値切りに値切って買っていた。中国でこんなに値切ったのはここが最初だった。碑林は書の博物館みたいなところで、高校のときの書道の先生が好きそうなところだ。すごいとは思ったが、それだけ。
3日目も自由行動。夜には寝台で敦煌に向かうので、それまでの間、一人で行動することにした。この旅始まって以来の一人だが、これと言ってすることがない。とりあえず暇つぶしに「シルクロードの始点」なるところに行ってみた。街の中心から西へ行くのだが、歩いても歩いてもつかない。けちってタクシーに乗らなかったのが間違いだった。道はほこりっぽいし景色はつまらんし。ようやくついたと思ったら、いんちきっぽい親父が入り口にいて、入るなら金をとると言ってくる。外見から入るまでもないところだとわかったので、外側から写真をとって帰った。それから映画を見に行った。べつに映画が見たいわけではなく中国の映画館の雰囲気を味わいたかったのだ。その映画館では何本か上映していたが、言葉がわからなくてもいけるようにアクションものを選んだ。しかし、指定されたスクリーンの場所がわからない。表示通りに行っても納屋みたいなのがあるだけ。あいにくおれは最初の客らしくまだ誰も来ない。何分かしてカップルが来たのでついて行くとその納屋に入っていくではないか。マジかよと思いながらも入ると、特設ですとでもいうような村の映画館ってかんじだった。座席は全てカップル用になっていて、隣や前後の客が見えないようになっていた。あれはうまくできていた。題名は覚えていないが内容はグリーンデスティニーに似ていた。グリーンデスティニーもそうだったが、なんで中国の映画は最初はいいのに落ちはダメなんだろう。クライマックスであり得ないCGを使われて一気に冷めてしまった。映画を見終わってからは電気屋巡りをした。ホテルでウォークマンの電池を充電しようとしたところ電圧に耐え切れずに燃えてしまっていたので、代わりの電池を探したり、家電を見たりしていた。
夕方になってホテルに集合して駅へ向かった。
そう、もうこの頃には旅が辛くなっていた。まだ2週間も残っているという現実が辛くて辛くてしかたがなかった…
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